199X年。

世界は核の炎に包まれた。

あらゆる生命体は絶滅したかに見えた。

しかし人類は死に絶えてはいなかった。

ていうか、みんなぴんぴんしていた。

なぜなら……

私たちはもう……死んでいる。

はい、ここで悲鳴の効果音。

衝撃!死後の世界へようこそ

………………。

…………。

……。

ぎゃおおぉぉぉーーーーっ!

…………。

……こほん。

ちょっと効果音のタイミング失敗しちゃったけど気にしない。

そんなわけで巷でも大評判、「おかげで3キロ痩せました」(奈良県:入江さん)、「高い所の枝も楽々カット」(福岡県:ひさ子さん)、「ドライブ感出とるな」(大阪府:岩沢さん)などなど、話題騒然のガールズデッドモンスター活動日誌、略してガルデモシーの時間がやってまいりました。司会進行は私、ガルデモイエローこと関根がお送りします。カレー大好き!

さてさて今回はガルデモ結成のきっかけとなった『死んだ世界戦線(Angels Heaven Objector)』、略してAHOについて書いてみたいと思う。

そのためにはまず、ここ死んだ世界について説明せねばなるまい。

衝撃!死後の世界へようこそ、いよいよスタート!

この番組は、ガールズデッドモンスター自らの提供でお送りします。

~CM~

岩沢! ひさ子! 入江! 関根!

四人揃ってガールズデッドモンスター!

今こそ人類のために立ち上がる時!

銀河に響け熱いビート!

ニューシングル『キラーチューンってなんやねん!?』、好評発売中!

~CMおわり~

ここは終わってしまった世界……

何も生まれず、何も死なない。

過ぎる時間さえ存在しない。

だから終わることすらない。

一度生まれ落ちたが最後、終わりのない世界に閉じこめられ二度と出られなくなる。

死ぬこともなく、新しい世界に生まれることもできない。

そんな凍てついた世界に、私たちは生きていた。

……おっと、これはちょっと違う世界だね。もとい、具体的に説明しよう。

まず、この世界では死なない。病気もなんにもない。ゲッ、ゲッ、ゲゲゲのゲー。

でもお化けと違って、学校も試験もあるのだ。ゲゲゲのゲェー。

その学校を支配する『天使』と、天使に対抗する『悪魔』が血で血を洗う闘争を繰り返す血みどろの世界……それがここ、死んだ世界なのだ。

屋上に神を降臨させようと目論む天使、その天使を打ち倒して学校を破壊しようとする悪魔。その狭間で人間たちは、なすすべなく闘争に巻き込まれていく。果たして最後に笑うのは……神か悪魔か?

そして何を隠そう私たちガルデモは、その禍々しい名前の通り(私が名付けたんだけどね☆)、悪魔側にくみする人間だ。

そう、死んだ世界戦線ことSSS……あ、間違えた。もとい、AHOは悪魔が立ち上げた組織なのだ。その悪魔の名を……ゆりっぺ先輩という。

みゆきちを小悪魔、ひさ子先輩を悪魔と例えるなら、ゆりっぺ先輩は魔王……いや大魔王……いやいや超魔王と言っても過言ではない。そんな超魔王が神を素手で殴り倒そうとしているのだ。世も末だと言えるだろう。

最初の出会いからしてものすごいインパクトだったのをよく覚えている。

一日の授業が終わり、寮に帰った私とみゆきちが自分たちの部屋で談笑していると、ゆりっぺ先輩が閉められたドアの隙間からぬるぬると部屋の中に入ってきて(説明しよう! ゆりっぺ先輩はところてんなので、その身体を分子レベルにまで軟体化させ、どんな空間も通り抜けることができるのだ!)、こう告げた。

「あなたたち人間ね、そうでしょ? 安心して、あたしはあなたたちの味方よ。我々『死んでも死なない戦線』はあなたたちを歓迎するわ。あたしたちと共に戦いましょう!」

有無を言わせぬその迫力と、つるんつるんのそのボディに、私もみゆきちもぽかんと呆気に取られたのは言うまでもない。

半ば強制的に、死んでも死なない戦線(当時はこの名前だった)の仲間に入れられてからというもの、私は7回死んだ。戦績で言うと0勝7敗。死亡回数が来世に影響してカマドウマにでも転生しちゃったらどうしようかと本気で悩んでいる。

「バンドせぇへんか?」

さてさて、私とみゆきちがAHOに入れられてからしばらく経った頃、岩沢先輩とひさ子先輩からそう誘われた。

ガールズデッドモンスターのはじまりだ。

生前バンド経験があった私たちは興味本位で首を突っ込んだが、岩沢先輩とひさ子先輩の特訓はとても厳しかった。その姿はまさしくデッドモンスター。ここで私の死亡回数が3回増えた。

私たちは死ぬほど厳しい(本当に死ぬ)その特訓を見事に乗り越え、かくして『Girls Dead Monster』が正式に結成された。

超低周波ロボ『ガルデモンX』に乗り込み、音速天使『オーアールZ』と戦うことが、私たち四人に課せられた使命なのだ!

そして、作戦を円滑に実行するためにAHOとガルデモを繋ぐ架け橋となっているのが、作戦オペレーターの遊佐先輩だ。

遊佐先輩は事あるごとに「ゆりっぺさん……報告……」と繰り返すゼムスブレスみたいな人である。

ライブラしかしてこないからひたすら攻撃していれば楽勝だが、魔法に対してはマインドブラストで反撃してくるので魔法攻撃は禁物。面倒なら逃げてもいい。お宝としてゼムスキラーを落とすとかいうデマが当時雑誌に掲載されたりしたけど、実際お宝を落とすことはない。

……と、こんな感じの人だ。

まぁ遊佐先輩は大して重要な人物じゃないのでこのくらいにして、次はいよいよ私たちガルデモが乗り込む巨大ロボ、ガルデモンXについて解説しよう。

ガルデモンXとは、岩沢先輩の搭乗する鳥型戦闘機『デッドクロウ』、ひさ子先輩の搭乗するヘビ型トレーラー『デッドスネーク』、みゆきちの搭乗するナメクジ型重戦車『デッドスラッグ』、私の搭乗するカエル型高速艇『デッドフロッグ』が、それぞれの旋律を合わせることで合体できる無敵の超低周波ロボなのだ。

合体すれば無敵なのだがデッドクロウ以外の三機は三すくみで動けないので、早く合体しないと単なる的になってしまう。そのため操縦者には高度な演奏技術が要求されるのだ。

それぞれの機体にも武装は取りつけられているが、内三機はどのみち三すくみで使用できない。残った一機、デッドクロウの武装も岩沢先輩が「これやとギリギリな感じが出ぇへんやん」とか言って外してしまった。要するに合体しなければ四機とも何もできないのだ。

なんか欠点のほうが多いような気がするけど、そこは私たちガルデモの熱い音楽魂で補うぜっ。

音速天使に立ち向かうガルデモの活躍に期待してくれ!

こうして今日も、AHOの手によって人知れず世界の平和は守られている。

AHO、そして私たちガールズデッドモンスターは、人類の明日のために日夜終わりなき戦いを続けているのだ。

頑張れ、関根! 負けるな、しおりん!

ガルデモGoGo!

Go! GoGo!

***

「ふぅ……」

「おつかれ。相変わらず面白いこと書いてくれてるじゃねーか」

「げ」

筆を置くと同時に、がしりと肩を強く押さえつけられる。

し、しまった……。この、目に映るすべてが憎しみの対象になると言われる負のオーラはひさ子先輩だ。

ひさ子先輩に見つかったが最後、生きて朝日を拝むことはできないにょめれっちょ!

「誰が負のオーラだっ! 言ってるそばから書き加えてんじゃねーよ」

「い、いえ、これはその……手が勝手に……」

「関根、さてはチャレンジャーだろ、おまえ」

「いやぁ、そんなことないですけど……」

「褒めてねーよ!」

「痛いいたいイタイ~~っ」

げんこつ一発であたしの筆は止められ、頭をぐりぐりやられる。

いつの間にか部屋にはひさ子先輩をはじめ、四人ものメンバーが勢揃いしていた。道理で書いてる途中から暑くなってきたわけだ。それにしてもすごい集中力だね、あたし。

って、あれ? なんか人数がいつもより多いような気が……

「……ゆりっぺさんに報告しました」

「うわあっ! 遊佐先輩、いつの間にっ!?」

いつも冷静な遊佐先輩の頬が引きつっていた。

これはやばい。遊佐先輩の静かなる怒りはタイツとなって実体化し、世界のあらゆる場所で核が同時爆発……

「だから書き加えるなっての」

「内容を伝えましたところ、ゆりっぺさんは震える声で関根さんに呼び出しを。少しお話があるそうです」

「いやあああーーーーっ」

オーマイゴッド! 遊佐先輩の必殺技「ゆりっぺさん……報告……」が発動していた。

「自業自得だな」

「でもちょっとかわいそう。しおりん、無事に帰ってきてね……」

「うぅ……ありがとう、みゆきちぃ。あたし、生きて帰ったらみゆきちと結婚するんだ……」

「しおりん……」

「いや女同士だし、それ死亡フラグだろ。つーかおまえらもう死んでるから」

「さっすがひさ子先輩、ナイス三段ツッコミ!」

「とっとと行ってこい」

「くぅっ、冷たい……。岩沢先輩助けて~」

とっさに岩沢先輩へ向け手を伸ばし、助けを求める。

こちらに気づいた先輩は担いでいたケースを下ろし、ギターを取り出した。

「ひさ子たちと待ってるよ。今回の新曲は会心の出来だからさ。関根の言うキラーチューンってやつかな。ふたりにも聴かせてやろうと思って」

「そんなぁ~、今聴きたいんで助けてくださいよ~」

「往生際が悪いぞ。岩沢も待ってるって言ってるんだから、さっさとゆりの罰ゲーム……じゃなくて話を聞いてこい」

「ひぃーっ」

岩沢先輩は相変わらずの音楽馬鹿一直線で、あたしの懇願はあっさり流された。

こうしてあたしは超魔王こと、ゆりっぺ先輩の呼び出しを食らってしまいました。

ゆりっぺ先輩の罰ゲームを受けた者は発狂し、人格が変わると言われているのだ。生きて帰れる保証はない。もう死んでるけど。

馬鹿は死ななきゃ治らないって言うけど、死んでも治らないじゃないかっ。こんな理不尽なことがあっていいのだろうか。

CMの後、関根が大変なことにっ……!

この後もまだまだ続くよっ。チャンネルはそのまま!

~CM~

岩沢! ひさ子! 入江! 関根!

四人揃ってガールズデッドモンスター!

今こそ人類のために立ち上がる時!

脅威の四身合体! 戦え、ガルデモンX!

スーパー陽動ミサイルだ!

ってやっぱり陽動かよ!

~CMおわり~

ぎゃおおぉぉぉーーーーっ!

戦績0勝8敗。

この番組は、ガールズデッドモンスター自らの提供でお送りしました。

――「この後もまだまだ続く」と言ったらもう終わる。

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感想などをお題箱で伝えてくれたら嬉しいです!

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後書き

本編では不憫な扱いだった入江と関根ですが、Angel Beats!「Track ZERO」を読んで関根のキャラは少しわかったので、とりあえずその方向で好き勝手に妄想してみました。

勢い任せのジェットコースターネタですが、笑ってもらえたら嬉しい!