「オモイオモワレフリフラレ、オモイオモワレフリフラレ、オモイオモワレフリフラレ……」
俺は今、親指と人差し指でハートマークを作って胸に当て、ニキビ占いのような呪文を唱えさせられていた。
なぜこのような状況になったかと言えば、春原がこの学校の嫌われ者だったからに他ならない。
呪文を唱え、校舎の廊下をぐるり一周してくる途中で最初に話しかけてきた人が、あなたのことを好きな女の子である。そんなおまじない。
校内を五周もしておきながら誰にも話しかけられなかったという事実を認めたくない春原は、おまじないに効果がないことを証明するために俺まで巻き込んだのだ。
「頼むぞ、岡崎っ」
「それでは、いってらっしゃいませー」
春原と宮沢に見送られて資料室のドアを開き、廊下に出た途端、目の前を女子ふたりが通り過ぎていく。
「……だから、もう部員は足りてるでしょ、りえちゃん」
「ずっと手伝ってもらうわけにはいかないよ。原田さんには帰る場所があるんだから」
話しながら歩くふたりのうち、受け手のほうの女子に見覚えがあった。
♪Parallel Song
名前は確か……仁科だったか。最近、何度か話をしたことがある。俺を合唱部に入れたがっていたようだが、適当にあしらっていたのでもう諦めただろう。
ふたりが通り過ぎるのを黙って見送っていると、その仁科と目が合ってしまう。向こうもこっちの顔を覚えていたようで、俺に向けて笑顔を浮かべた。
やばい。このままだと確実に話しかけられる。
背後からの視線を感じ、慌てて後ろ手に資料室のドアを閉めた。こんな状況を見られたら何を言われるかわかったもんじゃない。つーか春原の奴は首を吊りかねない。
「ん? どしたの?」
もうひとりの女子まで俺のほうを振り返る。
物音を立てたせいでますます事態が悪化してしまった。このままではまずい。
「げ」
振り返った仁科の友達であろうその女生徒は、俺の顔を見るなり短くそう漏らした。
「行こっ、りえちゃん」
「あっ……」
すぐさま女生徒は俺に背を向け、そのまま強引に仁科の手を引っ張って新校舎のほうへと逃げるように去っていった。
実際逃げたんだろう。
俺の顔を見た時の女生徒の表情。あれがこの学校の生徒の、俺や春原に対する普通の反応だった。
あまり気分のいいものではないが、有り体に言えばもう慣れた。
今回はそのおかげで話しかけられずに済んだのだから良しとしよう。
「今、このへんをお腹を空かしたクマがうろついてるんだ……」
「……!」
その後も俺は、なんか小さいのに話しかけられそうになるという危機をなんとか回避し、新校舎へと足を踏み入れた。
*
これで教師に話しかけられたりしたら最悪だよな……。
職員室の前を通りながら、ふとそんなことを考えてしまう。
悪い予感を頭から振り払っていると、肩をとんとんと軽く叩かれた。
やべぇっ、マジでシャレになってないぞ。校内を五周もしたのに教師に呼び止められなかった春原は、ある意味運が良かったんじゃ……。
恐る恐る振り返ると、そこにはさっき友達に引っ張られていったはずの仁科の姿があった。
「こんにちは、先輩」
「……」
話しかけられてしまった……。内心の動揺を隠し、努めて冷静に返す。
「おまえ……さっきの友達はどうしたんだよ」
「すー……じゃなくて、杉坂さんならお花畑です」
「俺と話をするのに邪魔だから始末したのか」
「とんでもないこと言わないでくださいっ。三途の川の向こうにあるお花畑じゃありません」
仁科は大げさに手を振りながら否定して、こほんと咳払いをひとつする。
「"Water Closet" です」
そして流暢な英語(?)を交えながら言葉を続けた。意地でもトイレと言いたくないらしい。
「……」
目の前に立つ小柄な少女の姿を見つめる。
こいつが、俺のことを好きな女の子……?
確かに最初会った時から好意的……というか馴れ馴れしい奴だったが……。
って、おまじないなんか信じてるんじゃねぇよ……。
こいつは俺がこの学校のはみ出し者だと知らないからだ。知っていて近寄ってくるはずがない。
「? どうかしましたか」
「いや……。それで、俺に何か用でもあるのか?」
「あ、はい。先日は答えを聞いてませんでしたので」
「あん?」
「合唱部に入りませんか?」
「……」
……。
「……じゃあな」
おまじないに効果がないことを確信した俺は、そそくさとその場から立ち去った。
「岡崎、てめぇっ! いったい何人に話しかけられやがったぁっ!」
無駄に疲弊したため、癒しを求めて資料室に帰ってきた俺を次に待っていたのは、アホの尋問だったことは言うまでもない。
***
「合唱部に入りませんか?」
「いや、そんな場合じゃないだろ……」
「そうですね……」
後日。
なぜか俺と仁科はふたりきりで体育倉庫に閉じ込められていた。
いや、なぜかではない。確実に俺が原因だ。
発端は先日と同じく、あのおまじないだった。宮沢が言うには「閉ざされた体育倉庫にふたりきり。果たしてふたりは無事脱出できるか!?」というおまじないらしい。体育倉庫に閉じ込められる時点で、どう考えても呪いだと思うが。
「困りましたね」
ちっとも困っているように見えない顔で仁科が言う。
入り口の前には大量のマットが折り重なるように倒れ込み、体育倉庫の扉を完全に塞いでしまっていた。
ここに閉じ込められる寸前、仁科がとっさに俺の手を引っ張ってくれなかったら、今頃はマットの下敷きにされていただろう。
「とにかく、おまえのおかげで助かった。ありがとな」
「いえ……」
照れたように視線を逸らす。
今まで勧誘から逃げるばかりでまともに話を聞いてなかったが、こうして見ると普通の女の子だ。
やべ、一度意識してしまうと余計に話しづらくなるじゃないか。
「……」
「……」
気まずい沈黙が流れる。
「とりあえずマットでもどけるかっ」
必要以上に大きな声でごまかすように言うと、手近な場所にあったマットを持ち上げる。
おまじないの解呪方法を聞いてはいたが、できればその方法を使うことだけは避けたかった。
「あ、私も手伝います」
「あんま無理すんなよ」
「大丈夫です」
そう言ってはいるが、見ていて危なっかしい持ち方だった。
両手で抱え込むようにしたそのマットをひょいと奪い取る。
「ありがとうございます。先輩って意外と優しいんですね」
「意外とか言われる人間なのは確かだが、優しくはないだろ。不良だからな」
思わず自虐的にそう漏らしてしまう。
「私にはそうは思えません」
即座にきっぱりと否定された。
「先輩は知らないと思いますけど、私、先輩がお婆さんに優しく声をかけてるのをすぐ後ろで見てましたから」
俺が婆さんに? ああ……藤林の占いを真に受けて酷い目にあったあれか。
あれを見られていたんだったら、めちゃくちゃ格好悪い。
「マジか……」
「マジです。あのお婆さん、500円玉を拾ってましたね」
「そのことを知ってたんなら止めてくれ……」
「今度は止めますね」
「そんな機会、二度とないからな」
危うく素でツッコミを入れてしまいそうになったが、どうにか堪える。仁科は手で口元を押さえてくすくすと笑い出した。
こいつと話しているとどうも調子が狂うな。だが不思議と悪い気分ではなかった。
「ちょっとした冗談です。私も後になって気づいたんですよ。その時は周りの人たちが騒ぎ出しちゃって、先輩のほうもいきなり怒り出したものですから」
「怒ったわけじゃないんだがな……」
「でもすごい顔で睨みつけられましたよ。それで、『なにジロジロ見てんだ、あァ?』って言われました」
眉を吊り上げ、俺のセリフを真似てドスを効かせてみせる。
あまりにも似合わないその仕草に思わず笑ってしまう。
「そりゃ悪かったな」
「いえ、ジロジロ見てたのは本当ですから。それで、よく通る声だなって」
「……は?」
「先輩って、よく通る声だと思います。合唱向けです」
いつの間にかまた合唱部勧誘になっていた!
「私の中ではそれがすごく印象深くて。次に見かけた時も先輩は私のすぐ前を歩いてたんですけど、いきなり後ろを振り返って歩き出したもので、びっくりして思わず呼び止めてしまいました」
「ああ、あれな。俺にとっておまえはムーンウォークしながら学校に行けとかいきなり言い出したヘンな奴、という第一印象だ」
「ひどい言われようですけど、別にいいです。あのまま学校をサボっちゃうよりかは」
「なんで赤の他人の世話を焼く? ほっときゃいいだろ」
「そうですね……」
仁科は視線を落とすと、顎に手を当てて少し考え込むようにした。
「先輩は……」
結論が出たのか顔を上げると、どこか確信めいた視線を俺に向ける。
「この学校は嫌いですか?」
その言葉に、一瞬息が詰まる。
つい最近、目の前の少女とどこか似た雰囲気を持つ女の子から、まるっきり正反対の質問をされたことがあった。
あれから何かが変わったわけではない。それなのに俺は躊躇した。
だが、結局はあの時とまったく同じ答えに辿り着く。
「……少なくとも好きではないな」
「私もです。大嫌いでした」
彼女が躊躇もなくはっきりと口にしたその言葉は、俺の予想と大きく異なるものだった。
意外な返答に目を見開く。
どれだけじっと見つめても、その顔からはどんな感情も読み取れなかった。
「でも、今はちょっとだけ好きです」
俺の視線をまっすぐに受け止めたまま、少しはにかんでそう付け加える。
「先輩の質問の答えにはなっていないかもしれませんね」
最後にそう言って、仁科は笑った。
なぜこの学校を「大嫌い」とまで言い放ったのかはわからないが、詮索するつもりもなかった。
誰にだって触れられたくないことのひとつやふたつあるだろう。
俺だって学校が嫌いな理由などに触れられたくはない。
それに、仁科にとって学校が大嫌いな理由はすでに過去のものだった。
俺のようにいつまでも立ち止まっていることもなく、すでに歩き出しているのだ。
話が途切れたところで、手足のほうを動かすことにする。
俺は手に持ったふたつのマットを倉庫の奥へと運び、放り投げた。
*
入り口を塞ぐすべてのマットを倉庫の奥に運び終える。
なかなか面倒くさい作業だったが、たびたび仁科が二枚同時に運ぼうとしたりと無茶をしてくれるので、そう感じる暇すらなかった。
「ぐっ……開かねぇ……」
だが次は扉が開かなかった。ここまで来るともう呪いとしか思えない。
「もしかして、鍵をかけられちゃったんじゃないでしょうか」
「かもな……」
「どうしよう……」
やっぱりケツを出して解呪するしかないのか……。
「助けを呼びましょう」
座り込んでいた仁科が勢いよく立ち上がる。
「どうやって」
「大声を出して助けを呼びます。Help Me!って」
なぜ英語なんだろうか。
「おまえがそんな風に叫んでたら俺が加害者みたいじゃん」
「なんでですか?」
「いや、なんつーか……」
ていうか実際加害者だよな。おまじないなんか信じてなかった俺だが、こんな普通じゃありえない状況が実現してしまったら信じるしかない。
「あっ、そうだ!」
俺が口ごもっていると、仁科は名案を思いついたとばかりに、ぴんと人差し指を立ててみせる。
「では、合唱部らしく歌を歌いましょう」
「なんでだよ……」
「それに気づいたすーちゃん……じゃなくて、杉坂さんが助けに来てくれます」
「すーちゃんって、前にトイレ行ってたおまえの友達か」
「はい。Water Closet に行ってた私の友達です」
まさに呪いと呼べるレベルのこのおまじないをそんな方法で破れるとはとても思えないが、少なくともケツを出すよりはマシだろう。
「それで本当に助けが来るんなら、やってみてくれ」
「じゃあ、校歌を歌いましょうか」
仁科が同意を求めるように笑顔を向けてくる。
「ちょっと待て。俺も歌うのかよ」
「もちろんです」
「校歌の歌詞なんて知らねぇよ」
「……」
信じられないといった顔をされる。
「本当にこの学校の生徒でしょうか」
「ああ、そうだよ。ただ疎いだけだ」
「疎いにもほどがあります。生徒手帳に書いてるじゃないですか」
「ああ……そういや、そんなのあったな」
無造作に胸ポケットへ手を突っ込むと、入学してから一度も開いたことがないその手帳を取り出した。
それを見た仁科が目を丸くする。
「すごく新品な感じですね。私のより綺麗……」
「こんなもん無用の長物だろ」
「生徒手帳に好きな人の写真とか入れたりしません?」
「そりゃマンガの読みすぎだ」
生徒手帳を開いて校歌の歌詞が書かれたページを見つけたが、薄暗い倉庫内では光の当たっている部分しか歌詞が読み取れなかった。
曲調も覚えてないからどうせまともに歌えないだろうし、歌詞が多少見えなくてもなんとかなるだろ。
「こほん、あ~え~い~お~う~」
話がまとまったところで、仁科が咳払いをひとつして声を出す。なんか力の抜ける発声練習だが、姿勢正しくぴんと立っていてなかなか様になっていた。
「それじゃ、いきますよ」
「ああ」
「さん、はいっ」
俺に対してか、リズムを取って仁科は歌い始めた。
倉庫内に差し込む中途半端な光で斑模様になっている歌詞を読み取ろうと目を細める。
「――♪」
歌声が体育倉庫の中に、そしてきっと外にも響き渡っていく。
懐かしい感じがした。
校歌にではない。穏やかな表情で歌っている彼女の歌声に。
「? どうかしました?」
「いや……歌上手いな、おまえ」
「ありがとうございます」
音楽のことなど何ひとつ知らないのに、思わず適当なことを言ってしまう。そもそも俺には歌が上手いとか下手とかすらよくわからない。
それに、よく考えたら合唱部を作ろうって奴が歌が下手なわけないよな……。
「――♪」
また最初から歌い始める。
俺は生徒手帳も見ないで、窓から差し込む光に照らされた少女の姿を見つめ続けていた。
「あの……じっと見られてると歌いづらいんですけど」
「ああ、悪ぃ」
「というか、先輩も歌ってください」
「そういやそうだったな」
「私ひとりで歌ってたら馬鹿みたいじゃないですか」
いや、ふたりで歌ってても馬鹿みたいだと思うんだが。
仕方なく生徒手帳に視線を戻す。
響く仁科の歌声。ところどころ生徒手帳から拾えた歌詞を声に出して、その歌声に合わせてみる。
不思議な気分だった。
「……えちゃん!」
外からくぐもった声が聞こえた。俺たちは歌うのをやめて耳を澄ます。
「りえちゃんっ!」
「すーちゃん!」
「心配したんだよっ! 何があったの!?」
「戸が開かなくなっちゃったのっ。鍵かけられてない?」
「えっ? ……あ、かかってるしっ。私、ちょっと職員室まで行ってくる!」
走り去っていく足音を聞いて、俺たちは安堵の息をついた。どうやらケツは出さなくて済みそうだ。
「これで無事、脱出できますね」
「ああ。でも俺と一緒に閉じ込められた、ってのはまずいだろ……」
「そんなことありませんよ」
こいつは呑気に言っているが、どう考えても問題だ。友達が教師を連れてきたりしたらさらに事態は悪化するだろう。
原因は俺だ。俺のことはどうでもいい。教師にどうこう言われるのは今に始まったことじゃない。だが俺のせいで仁科にまで火の粉が降りかかるのは我慢ならなかった。
「りえちゃんっ……、鍵、借りてきたよ……っ!」
息を切らせて、仁科の友達が帰ってきた。どうやら教師はいないようだが……。
かちゃりと鍵が開く音が倉庫内に響く。
扉が開く前に、俺は奥の物陰に身を隠した。
「りえちゃん……! もうっ、すっごく心配したんだよっ」
「ごめんね……」
仁科の友達が感極まって仁科に抱きつく。本当に心配だったんだろう。
「りえちゃんのことだから、またぼんやりしてたんでしょ?」
「そんなことないよ。先輩が……あれ?」
ようやく俺がいないことに気づく。本当に呑気な奴だ。こらこら、きょろきょろするなっ。
「じゃ、もう閉めるよ」
「ああっ、ちょっと待って!」
扉を閉めようとする友達を、仁科が慌てて制止する。
やべぇ……このままだとまた閉じ込められるっ。かと言って今、姿を見せるわけには……。
「……なんで?」
「あっ、あとで閉めよっ、ねっ?」
「そりゃ別に構わないけど……。んじゃ、先に部室を片づけよっか」
「うん」
心底ほっとした様子の仁科だったが、顔を上げると一転、怒ったような表情で倉庫内を見回した。どうやら勝手に隠れた俺に異議を申し立てているようだ。
すまん。隠れた後のことまで考えてなかった。
「さっ、早く部室に戻ろっ」
「う、うん……」
仁科は何度かこちらを振り返っていたが、やがて友達に急かされて旧校舎のほうへ去っていった。
「ふぅ……」
外の空気を大きく吸い込む。
ふたりの声が聞こえなくなり、少し間を空けてから俺も体育倉庫を出た。
思ったより長い間閉じ込められていたようで、周囲はすっかり夕焼けの朱に染まり、部活をする者の姿もなく静まり返っていた。
「どうして隠れたりしたんです?」
体育倉庫の扉を閉めたところで、横から声をかけられる。
見ると、倉庫にもたれかかるようにして仁科が立っていた。
「おまえこそ、どうしてすぐに戻ってきたんだ?」
「まだお礼を言ってませんでしたので」
「礼ならすーちゃんに言え。待たせてるんじゃないのか」
「いえ、すーちゃんなら……」
「Water Closet 」
ふたりの声が重なる。
「……だろ?」
「……です」
直後、ぷっと吹き出した仁科に釣られて、俺たちは笑い合った。
「ありがとうございました、先輩。今日は楽しかったです」
ひとしきり笑った後、仁科はぺこりと頭を下げる。
楽しかった。その言葉を疑問に思わなかったのは、俺もどこか似た思いを持っていたからかもしれない。
「ありがと、すーちゃん」
俺に背を向けながら、仁科が小さくそう漏らした。
すーちゃんと呼ばれた仁科の友達も本当は気づいていたのかもしれない。俺が一緒にいたことを。
「綺麗な夕焼け……明日も晴れるかな」
夕焼け空を見上げているその後ろ姿に、なぜか懐かしさを感じた。
「なあ、仁科」
初めてその名を呼ぶ。
「なんですか? 岡崎さん」
くるりと振り返った仁科は、まるで俺の呼びかけを返すように、初めて俺の名を口にした。
「仁科はどうして合唱部を作ろうなんて思ったんだ?」
「それは……」
目を軽く閉じ、胸に手を添える。まるで自分にも言い聞かせるように。
「みんなで声を合わせて歌うこと……とても楽しいと思ったからです」
夕日を背負ったその笑顔に、俺は不覚にも見惚れてしまっていた。
「ですので、岡崎さんも一緒に歌いましょう」
だがそれも一瞬のこと。気がつくとまた合唱部勧誘になっていた!
馬鹿らしさを通り越して笑えてくる。
俺は大笑いした。最初は不満顔だった仁科も、やがて俺に釣られて笑い出した。
夕焼け空の下で、またふたり笑い合う。一日でこんなに笑ったのは久しぶりだった。
「考えておくよ」
こみ上げてくる笑いを堪えながらそう答える。
不思議だった。部活なんて面倒なものにまた関わろうとしている自分が。
やっぱり、変わらないものはないのだろうか。
でも俺は、何もかも変わってしまうことを望んでいたはずだ。
だったら歩いてみてもいいのかもしれない。ずっと立ち止まっていた俺に小さな変化をもたらした少女……仁科りえと一緒に。
――続かない。
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感想などをお題箱で伝えてくれたら嬉しいです!
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♪後書き
有紀寧のおまじないから始まるかもしれない仁科りえシナリオ分岐ネタでした。一応、仁科りえ攻略妄想ページやSSとリンクしてます。「婆さんに声をかける」は必須選択肢。
りえちゃん好き好きビームを発射するくらい私的仁科りえ全開な感じですが、楽しんでもらえたら嬉しい!