どこの学校でも、入学式というものは退屈だ。

どーでもいい話を長々と続ける校長先生。役員とか会長とか生徒会長とか、今後の学校生活で一度も関わらないであろう肩書きの人の挨拶。

あくびをかみ殺しながら、視線だけはどうにか前に向ける。

ただ座って聞いているだけなのに、腰のあたりがむずむずして落ち着かない。こういう雰囲気は苦手だった。

こんな堅苦しい行事が好きな人はあまりいないだろう。その証拠に、後ろのほうからはひそひそと生徒たちの話し声が聞こえてくる。

それでも私は黙ってじっとしているほかなかった。

なぜなら……私の座っている席が最前列だから。

名字が名字なのでいつも前のほうになってしまう私だけど、今回は「あ」のつく人がいなかったから出席番号1番だった。

男子女子それぞれが出席番号順で二列ずつ座っていて、私の隣に座っている出席番号2番の子が……

「……」

さっきの女の子だった。

CLANNATSU

次は1年生を担当する教員の紹介があるらしい。ようやく自分と関わりがある人たちの話になったところで休憩時間になった。

長いなあ。中学の時もこんなに長かったっけ? あまり覚えてなかった。

「……あのっ」

いらぬ緊張で固まっていた身体をほぐすために座ったままぐっと背伸びしていると、隣の女の子が遠慮がちに声をかけてきた。

「うん?」

「さっきはヘンな人のせいで言い忘れてました」

「ああ、あのアホね……」

頭を掻きながら、男子が座っている席のほうに目を向ける。

「ごめんね。あいつ、私の友達……いや違うな。えっと、幼なじみ――も、なんかちょっと嫌だし……。あ、そう! 腐れ縁! 腐れ縁なんだっ」

「腐れ縁というと、納豆菌みたいな関係ですか」

「えぇー」

その例えは嫌だ。

「うーんと、あいつとはなんというか……知り合いなわけ。あいつさ、私が絡まれてるー、とか勘違いして助けようとしたんだよね。そんなわけで私のせいでもあるわけだし、本当にごめんね」

「ヘンな人はあなたが好きなんですか」

えらく直球で来たなあ。

「う、うん……まあ。そう、らしい……けど……」

思わず口篭もってしまう。素敵な恋愛に憧れてはいるけど、恋愛話――いわゆるコイバナというやつが私はどうも苦手だ。

「それは……愛ですね」

「うわあーーっ! やめて! さぶイボが出るっ」

さっと髪をかきあげながら恥ずかしいセリフを恥ずかしげもなく言われ、私は頭を抱えて転げまわった。

幼なじみの男女って、どうしてこう冷やかされたり勝手にくっつけられたりするんだろ。しかも片方が否定どころか喜んで肯定するからタチが悪い。「幼なじみってだけでも嫌なのに……」とか言ってやれたらいいんだけど、そこまでは嫌いじゃないし。結局は肝心なところで弱気な私だった。

「ヘンな人の奇襲攻撃が愛ゆえの過ちであることはわかりました。風子、もう大人ですので過去にはこだわりません」

「な、なんか引っかかるけど……ありがと」

そこで、まだお互いに名乗っていなかったことに気づいた。緊張から少しかしこまって話しかける。

「さっきは言い忘れてたけど、えーっと……私は磯貝夏海っていうんだ。よろしくね」

「あ、はい。よろしくお願いします。えっと、風子は……」

ぐっと目を閉じてうんうんと何かを思い出すような素振りを見せていた女の子が、くわっと目を見開く。

「オレだよ、オレオレ、そう、風子! あんたの孫の風子だよっ! 事故っちゃって困ってんだよ!」

「オレオレ詐欺風自己紹介!?」

さっきからこの子のキャラがぜんぜん掴めない。

「……間違えました」

本人も恥ずかしかったのか、顔を赤らめて素に戻る。

「風子は……じゃなくて、アタイは――でもなくて、わたしは……」

アタイ!? どんなキャラなの?

「伊吹、風子……です」

少しためらいながらそう言うと、伊吹さんはぺこりと頭を下げた。

お互いに自己紹介を済ませたところで、続きを促す。

「それで、伊吹さんの言い忘れたことって?」

「あ……」

まるで今そのことを思い出したかのように声を漏らす。

そして、気合いを入れるように両手をぎゅっと握って拳を作ってみせる。

また何か言い出すんじゃないかと、私のほうも構えてしまう。

「風子のお友達になってくださいっ」

「……」

思ってもみない言葉に一瞬、呆気に取られる。

「うん。ていうかわざわざ言わなくても、これからはクラスメイトなんだし、友達でしょ?」

「ありがとうございます」

また、ぺこりと頭を下げる。律儀な子だった。

出会ってすぐではまだよくわからないところもあるけど、というか本っっ当に意味わかんないところもあるけど、私は伊吹さんに親近感を抱いていた。なんとなく私と似ている部分があるのだ、この子は。

「……磯貝さん」

かしこまった様子で、初めて私の名前を呼ぶ。

「うん?」

「席が近かったらいいです」

「あ、うん。出席番号順だったら私が一番前の特等席で、伊吹さんがその後ろなんじゃない?」

「だったらうれしいです」

「一番前の特等席はちょっと嫌だけど……そだね。私も嬉しいよ」

伊吹さんが最後に見せた笑顔は、私の心に強い印象を残した。

高校生活の最初に出会い、最初の友達になった伊吹さん。正直ちょっと変わった子だけど、おかげでこれからの高校生活がますます楽しみになったのは間違いなかった。

☆☆はじめの第一歩

長い、長い入学式がようやく終わり、いよいよ1年の教室へ移動することに。

新校舎の二階、「1-A」と書かれたプレートの下、引き戸が全開にされた入り口をくぐって、どこか懐かしい匂いのする教室内に入る。

黒板には大きく「入学おめでとう」と書かれていた。綺麗な字だ。その横にはきっちりと線引きされた座席表も書かれている。

予想通り、私の席は窓際の一番前だった。窓際なのはいいけど、プリント集めの時とか先生に指名されやすい特等席だ。

そしてこれまた予想通り、私の後ろには伊吹さんが座っていた。さっそく後ろを向いて話をする。

「私の言った通りだったでしょ」

「よかったです」

「改めまして、よろしくね」

「はい」

高校生活最初の友達ができた喜びを分かち合っていると、横の席から無骨な手が伸びてきて、机を人差し指でトントンとつついてみせる。

私の斜め後ろ、伊吹さんの隣に座っている男子……そいつは……

「運命だね……なっちゃん」

親指を立てて、キラリとウインク。

「おえぇぇ……」

「最悪です」

ふたりして全力で不快感を露わにする。

この高校の通学途中にある幼稚園で同じクラスになったのが運の尽き。それ以来、小学六年間ずっと同じクラスで席もだいたい隣同士。さらに塾まで一緒。中学三年間もずっと同じクラスが続き、そして……もう諦めてたけど高校になってもやっぱり同じクラス。腐れ縁もここまで来ると、もう何かの呪いなんじゃないかと疑ってしまう。

「なっちゃんと喜びを分かち合えて嬉しいぜ」

「ぜんぜん喜んでないから」

適度な距離感を無視して、さっそく目の前――というか真横に寄ってくる。げんなりして投げやりなツッコミを入れていると、伊吹さんが開口一番こう告げた。

「ヘンな人っ!」

「ヘンな人、って……もしかして俺?」

「当然です。そうそういないくらいヘンな人です」

言いながらビシッと私の隣を指差す。

「十年にひとり現れるかどうか……そう言っても過言ではないかもしれません。いえ、ずばり過言ではないでしょう」

推測から断定に至るまでがめちゃくちゃ早い。

「そこまで言われると、なんだか誇らしく思えてくるな」

「少しは恥じなさいっての」

いきなり蹴っ飛ばした女の子に対してさっきから詫びの一言もないこいつにだんだん苛立ってきたので、肘で小突いて催促する。

「あ……えっと……今朝は悪かったな。伊吹ちゃん、だっけ?」

「ヘンな呼び方しないでください。それと、人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るのが礼儀というものです」

「俺のことをいきなりヘンな人呼ばわりしといてそれはないんじゃないか? ……まぁいいや。俺は岡崎。ここにいるなっちゃんの自称恋人さっ」

いちいち私の名前を出すな。それと、その気持ち悪いポーズはやめろ。そんな意図を視線に込めて睨みつけるも、まったく懲りた様子はない。

「岡崎さんですか、最悪です」

「いきなり最悪とか言うな。それに俺は『おかざき』じゃない、おかさきだ」

「おきさきさんですか」

「おかさきだっつーのっ! O・KA・SA・KI!」

「どっちにしても最悪です」

「えぇー。名前にダメ出しされたの初めてだ……」

さすがのこいつも、伊吹さんには押され気味だ。

「よーし、ホームルームを始めるぞー。みんな席につけ」

ここで先生が登場。話を打ち切って前を向く。

私たちのクラス担任は、朝に校門前の坂道で会った女の人だった。入学式の教員紹介の時と同じスーツ姿でメガネをかけている。

先生は教壇に立つとさっそく黒板に向かい、綺麗な字で自分の名前を書く。

「入学式と繰り返しになってしまうが、改めて挨拶させてもらおう。君たちのクラス……1年A組を担当する坂上智代だ。よろしく頼む」

美人女性教師の登場に、男子連中からさっそく浮ついた声があがり始める。

男子ってどうしてこう、女なら誰でもいいと思われるような反応をするんだろう。女子にも男の人に対してそういう反応する子がいるけど、私にはよくわからない言動だった。ひとりでヒューヒュー言ってるような子はいないだろうから、集団心理なのかなあ。

はやし立てる男子の声が教室のいたるところから聞こえる中、私のすぐ斜め後ろからはそんな声が一切聞こえない。なんだかちょっと安心した。

……って、なに安心してんだ私っ!

「専攻……担当教科は英語だが、他の教科も教えてやれないこともない。わからないところがあれば遠慮なく質問するといい」

「はい先生! 質問です!」

英語教師なのに侍みたいな喋り方する人だなー、とか思っていると、さっそく男子が挙手する。質問の内容は……聞く前からだいたい予想がつく。

「彼氏はいますかっ?」

やっぱり。

この発言によってクラスの女子全員の、その男子に対する評価が下がっただろう。無論、私もだ。

さて、先生はこの下衆の勘ぐりな質問にどう答えるだろうか。

「いない。そう答えたら、おまえはどうするつもりだ?」

低い声でそう返す坂上先生。その鋭い眼光を目にした男子の顔が驚きに固まった。

「……いや、その……な、なんでもないです!」

男子、気迫負けして逃げるように着席。すごい。

「なんだ……思い切った質問をする割には弱気な奴だな。いないなら彼氏に立候補する! そのくらいの勢いで来い」

声のトーンを戻してそう締めくくる。さっきの迫力を乗り越えることができる男子はなかなかいないだろう。

「それと私は『生活指導』などという堅苦しい肩書きを持ってはいるが、君たち生徒の悩みや意見を聞くのが責務だと自負している。授業に関すること以外でも言ってくれれば相談に乗るぞ」

教壇の机に両手を置いて教室内を見渡す。

「さて、私の話はこれくらいにして……次は君たちのことを聞かせてもらおう。自己紹介というやつだな」

自己紹介……嫌な予感。

「まずは……そうだな。磯貝さんから」

来た!

心音が跳ね上がる。先生に指名されやすい窓際一番前の席が早くも大当たり。

平静を装って「はい」と返事をしながら、椅子を引いて立ち上がる。

「ええっと……緑ヶ丘中学から来ました、磯貝です。よろしくお願いします」

予想通りの展開で心の準備も少しはできていたので、頭の中で繰り返していた当たり障りのない自己紹介を無事に済ませる。

先生の拍手を皮切りに、クラス中から拍手をもらう。

と、そこでヒューヒューと私をはやし立てる声が斜め後ろから聞こえた。

「なっちゃん最高ーーっ!」

うわ……あの馬鹿っ!

顔の温度が急激に上がっていくのが感じられる。めちゃくちゃ恥ずかしい。

周囲のざわめきを尻目に、さっさと着席する。

うぅ……穴があったら入りたい……。

「さて次は……伊吹さん」

「はいっ、ウルトラの母!」

……え?

びっくりして振り返る。

素早い起立と同時に発した伊吹さんの言葉に、ざわついていた教室内が一気に沈黙した。

「……ウルトラの母?」

いきなりウルトラの母と呼ばれた先生も困惑している。

「……間違えました。先生」

「そ、そうか。では自己紹介を頼む」

伊吹さんが目を閉じてうんうんと何かを思い出すようにしている。ま、まさか……さっきのオレオレ詐欺風自己紹介をここでもするつもりなんじゃ……。

「YO! YO! オレだよ、オレオレ、SOW、風子! あんたの孫の風子だYO! 事故っちゃって困ってんだYO!」

「ラッパー風自己紹介!? ていうか内容はオレオレ詐欺風自己紹介のまんまじゃん!」

思わず全力で合いの手を入れてしまう。長年ボケ男に付きまとわれていたせいで、ツッコミが身体に染みついてしまっていた。

「YO! YO! オレ岡崎!」

「あんたも対抗してくんな!」

「なっちゃんにツッコんでもらえるのは俺だけでいいんだあーーっ!」

「ああーーっ! もう、うるさい!」

こいつがいきなり大声で叫ぶもんだから、言い返す私の声も自然と大きくなってしまう。

周囲の視線が自分に集中しているのに気づいて我に返ったが、もう遅かった。入学早々、めちゃくちゃだ。

恐る恐る先生のほうに目を向ける。

「なるほど。"自己"と"事故"を掛けているのか。事故紹介というわけだな、うんうん」

笑顔でしきりに頷いていた!

ダメだこりゃ。この人はボケにもツッコミにも素で返す、いわばボケ泣かせ(ボケ殺しともいう)タイプだ。

「それはともかく、三人とも元気があってよろしい。じゃあ次は……加山さん」

「はい」

何事もなかったかのように続きを促す坂上先生。うーん、大物だ。

でも結局伊吹さんはまともな自己紹介すらしてないんだけど……いいの?

「那加原中学から来ました野咲です。趣味は……園芸かな? いろんな花とか育てるのが好きです。よろしくお願いします」

その後は、一部を除いて平穏に自己紹介が続いていた。

趣味かあ。お母さんが言うには、私の趣味は「悪戯」らしいんだよね。公言できる趣味じゃないな。

伊吹さんの自己紹介以降は、教室内の張りつめた空気がなくなっていた。確かにあんなめちゃくちゃな状態の後だと気が楽になるかもね。私も恥をかいた甲斐があったというものだ。

……とは言っても、これ以上の恥はかきたくない。あのアホが自己紹介でまた私の名前を出そうとした時は、即座に口を塞いでおいた。

「なっちゃん、一緒に帰ろうぜ」

自己紹介が終わると、これからの日程が書かれたプリントをもらって解散。高校生活第一日目が終わった。今日は金曜なので、本格的な授業は来週からだ。

「伊吹さん、一緒に帰らない?」

後ろを向いて、そう誘ってみる。何か空耳が聞こえたが、気のせいだろう。

「……はい」

少し戸惑ったように見えたけど、頷いてくれた。

私自身、内弁慶というか……内気じゃないけど人付き合いが上手なタイプでもないので、こうして自分から誘うのは勇気がいる。

でも高校入学を期にもう少し積極的になろうとは考えていた。もちろんそれは『運命の出会い』を期待しての下心から来たものだったけど、まずは友達を作るのも悪くない。学生時代の友達は一生の友達になりうる、ってお姉ちゃんも言ってたし。

「じゃ、帰ろっか。私は歩きなんだけど、伊吹さんは? 電車?」

「風子も歩きです」

「よしっ、じゃあ三人で帰ろうぜ」

「って、なんでやねん!」

無視しきれずにツッコんでしまう。なんとかしなければ。

「高校生の男女が一緒に下校……周りからどう思われると思う?」

「うーんと……もしかして、付き合ってる? それとも、もうラブラブ? ひゅー! 熱いねぇ」

「わ、わかってるなら、少しは遠慮しなさい」

「でもさあ……方向はまったく同じだし、家もすぐそばなんだぜ。同じクラスで同じ時間に学校が終わって、部活もないし寄るところもないのにわざわざ別々に帰るほうが変じゃん」

「そ、それはそうなんだけど……」

確かに、こいつの家は私ん家から公園を挟んで向かい側にある。目と鼻の先だ。登校時はともかく、帰り道はどうしても一緒になってしまう。

「お互いに嫌いってわけじゃないんだし……ていうか俺は大好きだし。一緒に帰るくらい別にいいでしょ?」

「うーん……」

ここで「私は嫌い」って言えたらいいんだけど……こいつに嘘は通用しない。とりあえず伊吹さんに訊いてみる。

「伊吹さんはいい? こいつと一緒で」

「別にかまわないです」

「さっすが伊吹ちゃん! 話がわかるぅ!」

無駄にオーバーリアクションで小躍りしてみせる。

「その呼び方はやめてください、ヘンな人っ」

「OKわかった。これからは『ぶっきー』って呼ぶぜ」

「メガトン最悪ですっ」

そんなわけで、三人一緒に帰ることになった。はぁ、私ってやっぱり押しに弱いのかも。

話しながら、桜が舞う坂道を下る。行きの登りも絶景だったけど、帰りの下りもこれまた絶景だ。

「入学式とホームルームだけじゃ、高校生活が始まったって感じがしないな」

「そう? 私はそうでもないけど。ねぇ?」

伊吹さんに同意を求めてみる。こくん、と小さく頷いた。

「ホームルームも自己紹介だけだったしさ、なんか物足りないんだよ」

こいつは私以上に高校生活を楽しみにしていたらしい。受験勉強で私以上に苦労してこの高校に入学したのだから、それも無理ないか。

「あ、自己紹介で思い出した! 今年も言わせてもらうけど、学校で『なっちゃん』って呼ばないでよっ。恥ずかしい」

「そうかなあ、可愛いじゃん。なぁ? ぶっきー」

「なっちゃんはそこはかとなく可愛いですけど、ぶっきーは最悪です。やめてください」

可愛いとか可愛くないとか、そういう問題ではない。

「恥ずかしいからやめてって言ってるの!」

「……わかった」

絶対わかってない。

「しっかし、ぶっきーの自己紹介はインパクトあったな。あの怖そうな先生にいきなり『ウルトラの母!』だぜ?」

「先生もだけど、みんなびっくりしてたよね」

「みんな今頃ぶっきーがウルトラ関係の人なんじゃ……とか、まさか変身できるんじゃ……とか気になってるって、絶対」

んなわけない。

「だったらうれしいです」

嬉しいの!?

「でも先生があっさり流しちゃったから、結局まともに自己紹介できてないよね、伊吹さん」

「最終手段もあったんですけど、できませんでした。残念です」

「最終手段? 自己紹介の?」

「えっと……これです」

伊吹さんが鞄から紙袋を取り出して、中から"それ"を手に取って見せた。

「こ、これって……」

「まさか……」

"それ"を見た私たちは顔を見合わせ、同時に声をあげた。

「早苗パン!?」

CLANNATSU ☆3に続く。